「Ⅰ.働けなくても、生きていける家計」カテゴリーアーカイブ

成年後見制度は使えるか

前回、成年後見制度というものをご紹介しました。今回はこの制度が、働けないお子さんを抱えるご家族にとって活用できるものなのかを考えます。

法務省の「成年後見制度・成年後見登記制度」のサイトでは、成年後見の事例として、本人が統合失調症のケースを紹介しています。統合失調症の子が母親と暮らしていたものの、母親が亡くなり、唯一の親族である叔母が後見の申立てをしました。成年後見人には司法書士の人が選ばれ、本人の生活を財産管理の面からサポートします。

このように、成年後見、保佐、補助などの法定後見は、家庭裁判所が成年後見人(または保佐人、補助人)を選びます。弁護士や司法書士、行政書士などの法律の専門家や、社会福祉士などの福祉の専門家などが選ばれることが多いようです。成年後見人になるのに、資格は必要ありません。場合によっては、一般の市民である市民後見人が選ばれる場合もあります。

家庭裁判所は、本人の状況に応じて成年後見人を選定します。財産の管理などに法律的な知識が必要になりそうなケースでは、法律の専門家が選ばれることが多いです。福祉の知識が必要な場合は社会福祉士、金銭面や介護に特に問題がなく、本人に寄り添う人が必要な場合には市民後見人が選ばれます。一般市民とはいっても、各自治体で研修などを受けて、自治体のサポート期間に登録されている人が選ばれます。後見活動をサポートするグループとして活動している団体から選ばれることもあります。

成年後見の申立てでは、後見人の希望を出すことができます。親や子など、親族が後見人となることを希望することもできます。家庭裁判所は、他の親族にヒアリングをして、問題がないか判断します。以前は親族が選ばれるケースが多かったのですが、徐々にその比率が下がっています。親族が後見人に就任すると、お金の使い方にあいまいさが生じてしまうケースが多いためです。最近では、本人の財産が500万円を超える場合は、親族ではない専門家が選ばれるケースが多いようです。また、親族が後見人に就任した場合は、「後見制度支援信託」の利用を家庭裁判所から求められるケースもあります。「後見制度支援信託」については、また別の機会にご紹介したいと思いますが、毎月一定額を引き出すことができる貯蓄です。これを利用すると、成年後見人といえども、本人の財産を自由に引き出すことができなくなります。

専門家が後見人に選ばれた場合、選任後にはじめて本人や家族と会うことになります。会ってから後見人を交代することはできませんので、不安が伴います。しかし、弁護士や司法書士、社会福祉士なども、それらの団体で後見制度について研修を受けています。財産管理や契約の代行などは、本人の利益を最優先に考え、きちんと手続きを実行してくれるはずです。預金通帳や印鑑なども預けることになりますが、信頼して任せることが大切です。

後見制度には、財産管理だけでなく、本人の「身上監護」という仕事もあります。「身上監護」とは、本人の身のまわりのことに配慮して、生活面でのサポートを行うことです。

ただ単に、預貯金の管理を行うだけではありません。問題なく生活ができているかなど、時々訪ねて様子を見て、本人から話を聞くことが大切です。そして、問題があれば、本人の生活が改善されるように対応する必要があります。本人が一人暮らしであっても、施設に入居している場合でも同じです。本人の代わりになって、介護事業者などに改善を求めることもあります。なお、本人の生活改善のために手配をするのであって、後見人が直接に介護などを行うわけではありません。介護事業者などを手配するなどして、サポートをするわけです。

さて、後見人の報酬はどのくらいになるのでしょうか。成年後見人(保佐人、補助人)などへの報酬は、家庭裁判所が本人の財産額を考慮しながら決めます。よって、不当に高い金額を吹っ掛けられるようなことはありません。支払うのは1年ごとなのですが、月額にすると、1~3万円程度が一般的です。さらに、成年後見人を監視する後見監督人もついた場合は、そちらにも報酬が必要になります。認知症高齢者などのように、5年ぐらいであれば、ある程度の金額で収まりますが、若い人が生涯にわたって利用するとなると、かなりの金額となります。後見制度が今一つ広がっていない理由に、報酬面での課題もあります。

デメリットとしては、一度選ばれた以上は、本人の判断の力が回復するのでもない限り、ずっと使い続けなければならない点です。本人所有の不動産など、まとまった財産を処分するために申立てをするケースも多いのですが、その売買が終わっても、ずっと利用し続けることになります。

後見人は年に一度、家庭裁判所に年間の報告をする必要があります。そのためにも、本人の支出はすべて記録を残し、領収書を保存しておく必要があります。たとえ親族が後見人になった場合でも必要になります。また、財産の使い方は本人の利益を優先させることが必要で、簡単に親族にお金を渡すことはできなくなります。この辺りが、後見制度の利用をためらわせる要因となるようです。

後見制度は利用を始めると、簡単にはやめられません。メリットとデメリットを十分に吟味して利用を検討することが大切です。

後見人の制度

本人が、財産の管理ができない、悪徳業者にだまされるのではないか心配だ、という場合に、別な人に財産を管理してもらうのが、「成年後見制度」です。働けない子どもを持つご家族にとって利用可能なのか、見てみましょう。

まず、後見とは何か、確認してみましょう。精神上の障害により、判断能力が欠けている人の財産を後見人が管理し、本人に代わって取引や契約をしてもらう制度です。本人がしてしまった不利な契約を後見人が取り消す場合もあります。未成年の子どもの財産を親が管理するもの後見ですが、ここでは成年後見制度を見ていきます。

成年後見は〝精神上の障害〟が制度利用の前提で、認知症や知的障害、精神障害などが対象になります。よって、「ひきこもり」というだけではこの制度は使えません。お子さんが利用する場合は、知的障害や精神障害と診断されていることが必要になります。ただ、財産を管理していた親が高齢になり、認知症となった場合に利用する可能性がありますので、ひきこもりにとってもかかわりのない制度ではありません。

利用方法としては、①本人(子)が利用する場合 と ②親が利用する場合 があります。本人が利用する場合は、本人の財産管理や契約代理を後見人にしてもらうことになります。一般的には、親が本人の財産を管理し、取引を代理することが多いと思います。後見制度は、本人名義でまとまった金額の財産や不動産があり、それを処分する場合などに利用をすることが多いようです。

親が高齢になって判断能力が低下してきた場合は、子が代わって財産管をすることが多いのですが、子がひきこもりなどでそれがかなわない場合に、後見制度を利用することができます。

いずれにしても、法律行為(財産を処分したり、契約したり)は、本来は家族であっても代わって行うことはできません。しかし、日常的には家族が行うことが一般的で、金額が大きくなければそれほど問題ありません。ですから特に支障がなければ、わざわざ家庭裁判所に申立てをして、後見人を立てるほどのことはありません。しかし、大きな財産を取引する必要に迫られて、あわてて申立てをすることが少なくありません。不動産など、大きな取引では、相手方から求められることもあります。

 

成年後見制度は大きく分けて、「任意後見」と「法定後見」があります。「任意後見」は、本人が判断能力のあるうちに、後見人になってもらいたい人と後見契約を結んでおきます。後見契約は公正証書にしておきます。そして、本人の判断能力がなくなった段階で、家庭裁判所に申立てます。家庭裁判所が後見監督人を選任すると、任意後見人による後見活動がスタートします。本人の財産を任意後見人が管理し、さらに任意後見人を、後見監督人がチェックするようになっています。主に高齢者が認知症に備えておくのに利用されています。お子さんがひきこもりで、自分が認知症になった場合にお子さんの支援が期待できない場合などに向いています。管理や代理をしてもらう範囲は明確に決めておきます。事前に契約を結んでおくわけですから、自分の信頼できる人に依頼できるので安心できます。あわせてひきこもりの子の様子も見てもらうぐらいはお願いできるかもしれませんが、子の財産管理まではお願いできません。

「法定後見」は、本人に判断能力がない場合に、家族や市区町村長などが家庭裁判所に申立てをすると、家庭裁判所が後見人を選んで、後見活動がスタートします。後見人は家庭裁判所が選任するのですが、申立ての時点で希望を出すことはできます。親や子、兄弟姉妹などの家族が選ばれることもあれば、弁護士や司法書士、社会福祉士などの専門家が選ばれることもあります。後見人には特に資格は必要ないため、士業などの専門家ではない市民後見人が選ばれるケースもあります。

法定後見は、本人の判断能力の状況で、3つのランクに分かれています。財産に関するすべての行為を代理するのが「成年後見人」です。財産の管理、契約の代理の他に、本人が結んだ不利な契約を取り消すこともできます。裁判所が定めた一定の契約を代理したり、取り消したりすることができるのが「保佐人」です。さらに障害の程度が小さい場合は「補助人」が選任されます。いずれも場合も、日常生活での取引については、後から取り消すことはできません。

将来まで家計が破たんしないポイント

お子さんが働けない場合は、ご両親の収入で生活していくことになります。親が高齢になってもご健在なうちは、親の年金で生活しているケースが一般的です。そして、親亡き後は親が遺してくれた資産を取り崩して生活していくことになります。

ご本人が65歳になると、ご本人に年金が支給されるようになりますが、国民年金だけでは生活していくのは難しいです。ご本人の老後まで、親の資産をできるだけ残して、生涯を全うできるようにしたいものです。

貯蓄が不足して、生活費もままならないようであれば、生活保護の申請も検討したいところです。しかし、それは最後の手段であり、できればご自身の貯蓄を使って生活していきたいものです。

そうなると、子どもが85歳から90歳ぐらいまで貯蓄が維持できるようになる必要があります。一般に平均寿命は、男性は80歳ぐらい、女性は87歳ぐらいと言われていますが、実際はもう少し長く生きることを想定しておかなければなりません。何歳まで生きるかは誰にもわからないからです。

このように言うと、「働かないで生きていく、なんて親が資産家でもなければ無理なのではないか」と思われる方も多いと思います。確かに、ある程度の貯蓄を遺してやらないと難しいのですが、意外となんとかなるものです。けっして「資産家」でなければ難しいということはありません。私たちは、働けないお子さんが、親亡き後も賄えるかをシミュレーションすることが多いのですが、「余裕で生活していける」とはいかなくても、「工夫次第でなんとかなりそうだ」というケースは少なくありません。

子どもの85歳までを考えるとしても、かなりの長時間となります。今、子どもが50歳だとしてもあと35年間あります。子どもが30歳であれば、55年間となります。(私たちは、このような長期間の家計シミュレーションをしています。)

分析を続けているうちに、あることに気がつきました。このように長期間の分析では、現在の時点での貯蓄額の多い少ない、ということより支出の状況によって将来の状況が大きく異なってくる、ということです。貯蓄の残高よりも支出の多寡のほうが、将来の家計状況に影響を与えるのです。

現時点での貯蓄額が多くても、支出が多いと、貯蓄の減り方が大きく、遅かれ早かれ貯蓄が枯渇してしまいます。そして30年~50年という長期間では「不足額」がかなりの金額になってしまいます。

一方、現時点での貯蓄額が少なくても、支出が少ない場合は、貯蓄の減り方が小さく、長い間貯蓄が維持できます。お子さんが80代、90代になっても貯蓄が枯渇する心配が少なく、長生きしても不安がなくなります。

では、支出を抑えるポイントはどこでしょうか?
私が多くのご家庭の分析をして感じるポイントは次の2点です。

  1. ご家族の生活スタイル
  2. ご本人の金遣い

ひきこもりのお子さんがいるご家庭は、比較的生活スタイルが堅実なご家庭が多いです。お子さんがご自宅に閉じこもっていると、なかなか旅行にも行きづらいですし、趣味にお金をかける気にもなりにくいでしょう。しかし、日常の買い物や自家用車の買い替えに資金をつぎ込んでいる場合は、収入が多く、資産が多いご家庭でも要注意です。支出することが生活スタイルになってしまっています。

お子さんのほうもあまりお金を使わない傾向があります。部屋に閉じこもっており、あまりどころかほとんど支出をしないお子さんも少なくありません。それはそれで望ましいことではありませんので、ある程度は使ってくれた方が安心です。外に出る、人と交わるということはお金も使うことになります。「お子さんにお金を使わせるために、あえて多めにお小遣いを与えた方がよい」という専門家の方もいます。

しかし、浪費癖があるようでは問題です。あまり活動的でないお子さんでも、金遣いが荒いケースはあります。ネットでなんでも購入できる時代ですので、すぐにいろいろなものを買ってしまうひきこもりのお子さんもいます。購入すること自体がストレス発散になってしまうと、際限がありません。

「生活スタイル」や「金遣い」は習慣的なものですので、これを変えるのは簡単ではありません。時間をかけて、少しずつ直していくことが大切です。

ファイナンシャル・プランナーはどんなことをするのか

ファイナンシャル・プランナーに「お金の相談」をしたら、どんなことをしてくれるのか、お話したいと思います。ファイナンシャル・プランナーといっても、いろいろなタイプの人がいて、その相談方法もまちまちです。よってここでご紹介するのは、あくまで私(村井)のご相談方法です。

ファイナンシャル・プランナーによる家計診断の基本は、「キャッシュ・フロー分析」です。中には、資産運用や保険の選択など、特定の分野に特化して、その相談だけを受ける人もいますが、私の場合は「キャッシュ・フロー分析」を行い、その上で運用や保険のご相談を受けています。

「キャッシュ・フロー分析」とは、現状の家計の状況を伺い、それを基に1年後の家計収支、2年後の家計収支を推測していき、10年後、あるいは30年後なの家計状況を推測していく分析手法です。そうすることで、将来の家計の状況が、今の段階でおおよそ把握できるようになります。

              1年間の収入 - 1年間の支出 = 年間収支

              前年の貯蓄残高 + 年間収支 = この年の貯蓄残高

この考え方を毎年繰り返していくと、10年後でも、30年後でも家計の状況が推測できるわけです。自宅を修繕したり、自動車を買い替えたり、といった大きな支出がある年は年間収支がマイナスになります。その年は貯蓄残高が減少することになります。ときにそういう年があっても気にする必要はありませんが、それが続いて、貯蓄残高までがマイナスになると問題です。貯蓄残高がマイナスということは、家計が破たんしている状態ですから、なんとか回避する必要があります。今の段階で、将来に危機的な状況になることがわかれば、改善策を考えればよいわけです。将来の状況をつかみ、問題があれば早めに対策が取れるのが、「キャッシュ・フロー分析」のメリットです。

もちろん、実際には計算どおりにならないこともあります。予想外に大きな出費があったり、いつの間にか少しずつ支出が膨らんでいることもあります。分析する期間が長くなればなるほど、現実との誤差は大きくなります。ただ、それでもあらかじめ、将来の状況が予測できているのといないのでは、大きな違いがあるでしょう。

ファイナンシャル・プランナー向けの専用ソフトもありますが、手書きで表を作っても、エクセルを使っても作成可能です。自分で作ることも可能ですし、退職者研修などで導入している企業もあります。(私も研修の講師をすることがあります。)ファイナンシャル・プランナーに依頼すると、有料にはなりますが、より妥当な分析になるでしょう。数多くの相談を受けていますので、微妙な〝さじ加減〟ができるからです。

さて、一般のご夫婦からのご相談による家計分析と、ひきこもりのご家族からの家計分析ではどう違うのでしょうか?

基本的な考え方は、上記の「キャッシュ・フロー分析」によりますので、同じです。ただ、一般的なご夫婦の場合は、そのご夫婦の平均寿命(正確には「平均余命」となります。)までの分析となり、そこまでに貯蓄を維持できていれば問題ありません。それに対して、ひきこもりご家族の場合は、ひきこもりのお子さんの平均寿命(余命)までを対象とし、そこまで貯蓄が維持できるかを分析します。分析の期間が40年、50年にも及ぶ長いものになります。

もう1つの特徴は、親とひきこもりの子の家計を一体のものとして分析する点です。多くの場合、ひきこもりのお子さんは親と同居しており、家計は一体です。別居している場合もありますが、それでもその子の生活を支えているのは親の家計です。そこで、親が生きているうちは、ひきこもりの子の生活費も親と一緒に計算し、親が亡くなると親の資産をその子がそのまま引き継ぐものとして計算します。ひきこもりではない子(ひきこもりの子の兄弟姉妹)が相続する資産は「出金」として計算します。このように計算すると、現在の状況から親亡き後の子の生活までが、一連の流れとして推測できるようになります。

ひきこもりの子が、生涯にわたって「収入を得られない」前提で分析するのも特徴です。そのような状況で、貯蓄の状況がどのようになっていくかを見ていきます。もちろん、ひきこもりのお子さんが仕事をして収入を得られるようになることもあります。それは、「収入を得られない」場合を基本として、アレンジしていきます。どのくらいの収入を得ると、どのくらい状況が改善されるか、ということも予測できます。

この辺りは一般の相談とは違うところで、ひきこもりのご家族のご相談を多く受けているファイナンシャル・プランナーに依頼した方が適切です。「キャッシュ・フロー分析」では、パターンを変えての分析も可能ですので、ご希望の状況に合わせて分析することもできます。

ひきこもりの相談をファイナンシャルプランナーに!?

私たちは、ひきこもりのご家族の家計相談を受けているファイナンシャルプランナーの集まりです。

「ファイナンシャルプランナーって、お金持ちが投資の相談をする人ではないの?」

確かに、資産家に対して資産運用のアドバイスをすることはあります。富裕層の相続の相談を受けることもあります。しかし、それはファイナンシャルプランナーの業務の一部です。
ファイナンシャルプランナーが対象にしているのは〝生活者〟すべてです。個人、そして家族の生活設計をお手伝いするのが、ファイナンシャルプランナーの役目です。ご相談者が、ご家族が、できるだけ充実した人生を送れるように、資金計画をご一緒に考えます。
そのためにも、ご相談者やご家族の状況を伺い、その方そのご家族にあったご提案をしています。ご回答もアドバイスも、ご相談者次第で、それぞれ異なります。

誰もがその人なりの充実した人生が送れるように、資金面でのアドバイスをしていますが、ひきこもりのお子さんを持つご家族にも同じように、そのご家族の状況に応じたお話をしています。お子さんが働けない状況であれば、資金計画はなかなか厳しくなりますが、それでもその中で、できるだけ充実した人生を送れるようにご提案をしています。

「子どもが働くように言ってもらえるのですか?」

ご両親からすると、お子さんが立ち直って収入を得られるようになり、自立してくれることが最大の願いです。ただ、残念ながら、お子さんをそのように導くことは私たちの専門分野ではありません。また、お子さんに将来の経済状況が厳しいことを教えたら、すぐに働く気になるわけでもありません。私たちは、たとえお子さんが生涯にわたって働けなかった場合でも、なんとか生きていけるように、資金計画を一緒に考えます。資金面での不安を取り除くお手伝いをしています。

「子どもが立ち直るのを諦めろと言うのですか?」

私たちは、お子さんが生涯働けない場合でも暮らしていける生活設計を考えます。(それを「サバイバルプラン」と呼んでいます。)資金計画は、お子さんが全く給与収入を得られないことを前提に作成します。しかし、それはけっして「お子さんの立ち直りを諦める」ということではありません。「最悪の状況を考えて、それでもなんとかやっていけるように考えましょう」ということです。その後、お子さんが仕事をできるようになり、少しでも収入が得られれば、それはそれで良いことです。当初の資金計画とは違ってきますが、〝改善〟ですので問題ありません。貯蓄が増えて、その後の生活に余裕ができます。最初は、あくまで「収入が得られない場合」を考えておき、状況が変われば、またその時点で見直していけばよいのです。

「働かなくても生活していけることがわかると、ますます仕事への意欲を失うのでは?」

これもよく心配される点です。ファイナンシャルプランナーですので、ひきこもりの勤労意欲について、明確には申し上げられません。しかし、資産があると勤労意欲を失うわけではないことだけはわかります。実際、富裕層の人は勤労意欲が低いわけではありません。むしろ、経済面での安心感を得ることが、今後の人生を投げやりにではなく、前向きに考えようという気持ちに向かわせるのではないかと思います。
ひきこもりのお子さんが仕事をするには、まず他者との交流ができるようになる必要があります。その段階ではお金の問題よりも、前向きな気持ちになれることが大切なのではないでしょうか。それには経済面で追い詰められた気持ちになるよりは、安心感を持てる方がプラスに働くのではないかと考えます。

将来のお金の問題は、はすぐに対応しなければならないことではありません。そして、できれば目を背けたいことかもしれません。しかし、いつかは〝親亡き後〟が訪れ、ご本人は一人で生きていかなければいけません。そして、そのための準備は早い方が良いでしょう。たとえお子さんが働けるようになったとしても、資金計画を考えたことがムダになることはありません。先送りしたい問題ではありますが、この機会に考えてみましょう。