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家計改善の考え方①-経常と特別

働けない子どもをお持ちのご家族に限らず、多くのご家族の家計相談を受けています。基本的に私(村井)によるご相談の受け方は、今の状況を伺って将来の状況をシミュレーションする分析手法です。
将来の家計状況をシミュレーションすると、現在は問題なくても、将来に状況が厳しくなるケースは少なくありません。特にお子さんが働けない場合は、ご本人に収入がない前提でシミュレーションしていきますので、貯蓄が不足してしまうことが多々あります。そのような場合は、なんとか家計の破たんを回避できるように、改善策を検討します。
家計の改善策にはいろいろな方策がありまずが、大きく分けると、3つになります。
① 収入を増やす   ② 支出を減らす   ③ 資産を増やす

このうち、「① 収入を増やす」は、効果は大きいのですが、簡単にできるわけではありません。働けないお子さんが働けるようになり、収入が得られるようになると、家計は改善しますが、期待だけでは正しい分析になりません。(シミュレーションの中で、その可能性を検討することはあります。)

「③ 資産を増やす」もできれば楽ですが、簡単なことではありません。この方法をお勧めするファイナンシャル・プランナーも少なくないのですが、これをやると、逆に資産を減らしてしまうリスクも抱えることになります。資産運用で資産が減ってしまった場合も十分に考慮しておかなければなりません。

「② 支出を減らす」は、〝節約〟をするわけですので、苦痛を伴いますが、もっとも安全確実です。資産運用では失敗して資産を減らしてしまうこともありますが、節約では失敗して支出が増えてしまうことはありません。節約したら節約しただけ、確実に財産が増えることになります。

というわけで私のご相談では、「② 支出を減らす」を中心に、「① 収入を増やす」と「③ 資産を増やす」も含めて改善策を考えます。

もっとも「② 支出を減らす」といっても、やみくもに「節約!節約!」と思っても、なかなか家計を改善する状況にはなりません。どこから手を付けていけばいいのでしょうか。

家計の支出を振り返ると、「毎月の経常的な支出」と「不定期な特別の支出」に分けられます。「毎月の経常的な支出」は、毎月発生する支出で、食費や水道光熱費、電話代などです。「不定期な特別の支出」は、家電製品の購入や、旅行の費用、時々支出する被服費などです。レジャーの支出でも、近くのショッピングセンターでの外食などは「毎月の経常的な支出」になりますし、年に1~2度の家族旅行なら「不定期な特別の支出」になります。ですから、厳密な区分けはなく、感覚的に分けていただいたので構いません。
ご相談の際には、シミュレーションをするために現状の家計支出を伺います。すると、たいていは「毎月の経常的な支出」については比較的正確に金額をお答えいただけるのですが、「不定期な特別の支出」についての漏れが多くなります。年に1~2回だったり、数年に1回ということもあります。しかし、金額が大きいことが多いので、これが抜け落ちてしまうと、正確なシミュレーションができません。将来の予想が、実際の状況よりもかなり良くなってしまいます。

詳しく伺っていくと、「ああ、そう言えば。。。」と支出が思い出され、実際の支出に近づいていきます。

家計の改善策を考える上では、この「不定期な特別の支出」をどう節約するかが重要なポイントになります。「毎月の経常的な支出」の削減から考える人が多いのですが、私は「不定期な特別の支出」の削減から考えていただくようにお話しています。その理由は

  1. 金額が大きいことが多い
  2. 具体的な改善点が明確で効果が表れやすい

ということにあります。
海外旅行、自動車の買い替え、自宅の修繕。。。

これらはいずれも数十万円から数百万円もします。この頻度を減らして、1回でも回数を少なくすれば、それだけで数十万円~数百万円が節約できます。毎日、節約に励んでも、それほど大きな金額にはなりません。
楽しみをまったくなくすわけではありません。その頻度を減らすだけで、大きな節約効果があります。

ただ、お子さんが働けないご家庭では、「不定期な特別の支出」自体がほとんどなく、ここで改善する余地がない場合も少なくありません。その場合の改善策は。。。次回にご紹介いたします。

将来まで家計が破たんしないポイント

お子さんが働けない場合は、ご両親の収入で生活していくことになります。親が高齢になってもご健在なうちは、親の年金で生活しているケースが一般的です。そして、親亡き後は親が遺してくれた資産を取り崩して生活していくことになります。

ご本人が65歳になると、ご本人に年金が支給されるようになりますが、国民年金だけでは生活していくのは難しいです。ご本人の老後まで、親の資産をできるだけ残して、生涯を全うできるようにしたいものです。

貯蓄が不足して、生活費もままならないようであれば、生活保護の申請も検討したいところです。しかし、それは最後の手段であり、できればご自身の貯蓄を使って生活していきたいものです。

そうなると、子どもが85歳から90歳ぐらいまで貯蓄が維持できるようになる必要があります。一般に平均寿命は、男性は80歳ぐらい、女性は87歳ぐらいと言われていますが、実際はもう少し長く生きることを想定しておかなければなりません。何歳まで生きるかは誰にもわからないからです。

このように言うと、「働かないで生きていく、なんて親が資産家でもなければ無理なのではないか」と思われる方も多いと思います。確かに、ある程度の貯蓄を遺してやらないと難しいのですが、意外となんとかなるものです。けっして「資産家」でなければ難しいということはありません。私たちは、働けないお子さんが、親亡き後も賄えるかをシミュレーションすることが多いのですが、「余裕で生活していける」とはいかなくても、「工夫次第でなんとかなりそうだ」というケースは少なくありません。

子どもの85歳までを考えるとしても、かなりの長時間となります。今、子どもが50歳だとしてもあと35年間あります。子どもが30歳であれば、55年間となります。(私たちは、このような長期間の家計シミュレーションをしています。)

分析を続けているうちに、あることに気がつきました。このように長期間の分析では、現在の時点での貯蓄額の多い少ない、ということより支出の状況によって将来の状況が大きく異なってくる、ということです。貯蓄の残高よりも支出の多寡のほうが、将来の家計状況に影響を与えるのです。

現時点での貯蓄額が多くても、支出が多いと、貯蓄の減り方が大きく、遅かれ早かれ貯蓄が枯渇してしまいます。そして30年~50年という長期間では「不足額」がかなりの金額になってしまいます。

一方、現時点での貯蓄額が少なくても、支出が少ない場合は、貯蓄の減り方が小さく、長い間貯蓄が維持できます。お子さんが80代、90代になっても貯蓄が枯渇する心配が少なく、長生きしても不安がなくなります。

では、支出を抑えるポイントはどこでしょうか?
私が多くのご家庭の分析をして感じるポイントは次の2点です。

  1. ご家族の生活スタイル
  2. ご本人の金遣い

ひきこもりのお子さんがいるご家庭は、比較的生活スタイルが堅実なご家庭が多いです。お子さんがご自宅に閉じこもっていると、なかなか旅行にも行きづらいですし、趣味にお金をかける気にもなりにくいでしょう。しかし、日常の買い物や自家用車の買い替えに資金をつぎ込んでいる場合は、収入が多く、資産が多いご家庭でも要注意です。支出することが生活スタイルになってしまっています。

お子さんのほうもあまりお金を使わない傾向があります。部屋に閉じこもっており、あまりどころかほとんど支出をしないお子さんも少なくありません。それはそれで望ましいことではありませんので、ある程度は使ってくれた方が安心です。外に出る、人と交わるということはお金も使うことになります。「お子さんにお金を使わせるために、あえて多めにお小遣いを与えた方がよい」という専門家の方もいます。

しかし、浪費癖があるようでは問題です。あまり活動的でないお子さんでも、金遣いが荒いケースはあります。ネットでなんでも購入できる時代ですので、すぐにいろいろなものを買ってしまうひきこもりのお子さんもいます。購入すること自体がストレス発散になってしまうと、際限がありません。

「生活スタイル」や「金遣い」は習慣的なものですので、これを変えるのは簡単ではありません。時間をかけて、少しずつ直していくことが大切です。

ファイナンシャル・プランナーはどんなことをするのか

ファイナンシャル・プランナーに「お金の相談」をしたら、どんなことをしてくれるのか、お話したいと思います。ファイナンシャル・プランナーといっても、いろいろなタイプの人がいて、その相談方法もまちまちです。よってここでご紹介するのは、あくまで私(村井)のご相談方法です。

ファイナンシャル・プランナーによる家計診断の基本は、「キャッシュ・フロー分析」です。中には、資産運用や保険の選択など、特定の分野に特化して、その相談だけを受ける人もいますが、私の場合は「キャッシュ・フロー分析」を行い、その上で運用や保険のご相談を受けています。

「キャッシュ・フロー分析」とは、現状の家計の状況を伺い、それを基に1年後の家計収支、2年後の家計収支を推測していき、10年後、あるいは30年後なの家計状況を推測していく分析手法です。そうすることで、将来の家計の状況が、今の段階でおおよそ把握できるようになります。

              1年間の収入 - 1年間の支出 = 年間収支

              前年の貯蓄残高 + 年間収支 = この年の貯蓄残高

この考え方を毎年繰り返していくと、10年後でも、30年後でも家計の状況が推測できるわけです。自宅を修繕したり、自動車を買い替えたり、といった大きな支出がある年は年間収支がマイナスになります。その年は貯蓄残高が減少することになります。ときにそういう年があっても気にする必要はありませんが、それが続いて、貯蓄残高までがマイナスになると問題です。貯蓄残高がマイナスということは、家計が破たんしている状態ですから、なんとか回避する必要があります。今の段階で、将来に危機的な状況になることがわかれば、改善策を考えればよいわけです。将来の状況をつかみ、問題があれば早めに対策が取れるのが、「キャッシュ・フロー分析」のメリットです。

もちろん、実際には計算どおりにならないこともあります。予想外に大きな出費があったり、いつの間にか少しずつ支出が膨らんでいることもあります。分析する期間が長くなればなるほど、現実との誤差は大きくなります。ただ、それでもあらかじめ、将来の状況が予測できているのといないのでは、大きな違いがあるでしょう。

ファイナンシャル・プランナー向けの専用ソフトもありますが、手書きで表を作っても、エクセルを使っても作成可能です。自分で作ることも可能ですし、退職者研修などで導入している企業もあります。(私も研修の講師をすることがあります。)ファイナンシャル・プランナーに依頼すると、有料にはなりますが、より妥当な分析になるでしょう。数多くの相談を受けていますので、微妙な〝さじ加減〟ができるからです。

さて、一般のご夫婦からのご相談による家計分析と、ひきこもりのご家族からの家計分析ではどう違うのでしょうか?

基本的な考え方は、上記の「キャッシュ・フロー分析」によりますので、同じです。ただ、一般的なご夫婦の場合は、そのご夫婦の平均寿命(正確には「平均余命」となります。)までの分析となり、そこまでに貯蓄を維持できていれば問題ありません。それに対して、ひきこもりご家族の場合は、ひきこもりのお子さんの平均寿命(余命)までを対象とし、そこまで貯蓄が維持できるかを分析します。分析の期間が40年、50年にも及ぶ長いものになります。

もう1つの特徴は、親とひきこもりの子の家計を一体のものとして分析する点です。多くの場合、ひきこもりのお子さんは親と同居しており、家計は一体です。別居している場合もありますが、それでもその子の生活を支えているのは親の家計です。そこで、親が生きているうちは、ひきこもりの子の生活費も親と一緒に計算し、親が亡くなると親の資産をその子がそのまま引き継ぐものとして計算します。ひきこもりではない子(ひきこもりの子の兄弟姉妹)が相続する資産は「出金」として計算します。このように計算すると、現在の状況から親亡き後の子の生活までが、一連の流れとして推測できるようになります。

ひきこもりの子が、生涯にわたって「収入を得られない」前提で分析するのも特徴です。そのような状況で、貯蓄の状況がどのようになっていくかを見ていきます。もちろん、ひきこもりのお子さんが仕事をして収入を得られるようになることもあります。それは、「収入を得られない」場合を基本として、アレンジしていきます。どのくらいの収入を得ると、どのくらい状況が改善されるか、ということも予測できます。

この辺りは一般の相談とは違うところで、ひきこもりのご家族のご相談を多く受けているファイナンシャル・プランナーに依頼した方が適切です。「キャッシュ・フロー分析」では、パターンを変えての分析も可能ですので、ご希望の状況に合わせて分析することもできます。