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家計改善の考え方①-経常と特別

働けない子どもをお持ちのご家族に限らず、多くのご家族の家計相談を受けています。基本的に私(村井)によるご相談の受け方は、今の状況を伺って将来の状況をシミュレーションする分析手法です。
将来の家計状況をシミュレーションすると、現在は問題なくても、将来に状況が厳しくなるケースは少なくありません。特にお子さんが働けない場合は、ご本人に収入がない前提でシミュレーションしていきますので、貯蓄が不足してしまうことが多々あります。そのような場合は、なんとか家計の破たんを回避できるように、改善策を検討します。
家計の改善策にはいろいろな方策がありまずが、大きく分けると、3つになります。
① 収入を増やす   ② 支出を減らす   ③ 資産を増やす

このうち、「① 収入を増やす」は、効果は大きいのですが、簡単にできるわけではありません。働けないお子さんが働けるようになり、収入が得られるようになると、家計は改善しますが、期待だけでは正しい分析になりません。(シミュレーションの中で、その可能性を検討することはあります。)

「③ 資産を増やす」もできれば楽ですが、簡単なことではありません。この方法をお勧めするファイナンシャル・プランナーも少なくないのですが、これをやると、逆に資産を減らしてしまうリスクも抱えることになります。資産運用で資産が減ってしまった場合も十分に考慮しておかなければなりません。

「② 支出を減らす」は、〝節約〟をするわけですので、苦痛を伴いますが、もっとも安全確実です。資産運用では失敗して資産を減らしてしまうこともありますが、節約では失敗して支出が増えてしまうことはありません。節約したら節約しただけ、確実に財産が増えることになります。

というわけで私のご相談では、「② 支出を減らす」を中心に、「① 収入を増やす」と「③ 資産を増やす」も含めて改善策を考えます。

もっとも「② 支出を減らす」といっても、やみくもに「節約!節約!」と思っても、なかなか家計を改善する状況にはなりません。どこから手を付けていけばいいのでしょうか。

家計の支出を振り返ると、「毎月の経常的な支出」と「不定期な特別の支出」に分けられます。「毎月の経常的な支出」は、毎月発生する支出で、食費や水道光熱費、電話代などです。「不定期な特別の支出」は、家電製品の購入や、旅行の費用、時々支出する被服費などです。レジャーの支出でも、近くのショッピングセンターでの外食などは「毎月の経常的な支出」になりますし、年に1~2度の家族旅行なら「不定期な特別の支出」になります。ですから、厳密な区分けはなく、感覚的に分けていただいたので構いません。
ご相談の際には、シミュレーションをするために現状の家計支出を伺います。すると、たいていは「毎月の経常的な支出」については比較的正確に金額をお答えいただけるのですが、「不定期な特別の支出」についての漏れが多くなります。年に1~2回だったり、数年に1回ということもあります。しかし、金額が大きいことが多いので、これが抜け落ちてしまうと、正確なシミュレーションができません。将来の予想が、実際の状況よりもかなり良くなってしまいます。

詳しく伺っていくと、「ああ、そう言えば。。。」と支出が思い出され、実際の支出に近づいていきます。

家計の改善策を考える上では、この「不定期な特別の支出」をどう節約するかが重要なポイントになります。「毎月の経常的な支出」の削減から考える人が多いのですが、私は「不定期な特別の支出」の削減から考えていただくようにお話しています。その理由は

  1. 金額が大きいことが多い
  2. 具体的な改善点が明確で効果が表れやすい

ということにあります。
海外旅行、自動車の買い替え、自宅の修繕。。。

これらはいずれも数十万円から数百万円もします。この頻度を減らして、1回でも回数を少なくすれば、それだけで数十万円~数百万円が節約できます。毎日、節約に励んでも、それほど大きな金額にはなりません。
楽しみをまったくなくすわけではありません。その頻度を減らすだけで、大きな節約効果があります。

ただ、お子さんが働けないご家庭では、「不定期な特別の支出」自体がほとんどなく、ここで改善する余地がない場合も少なくありません。その場合の改善策は。。。次回にご紹介いたします。

将来まで家計が破たんしないポイント

お子さんが働けない場合は、ご両親の収入で生活していくことになります。親が高齢になってもご健在なうちは、親の年金で生活しているケースが一般的です。そして、親亡き後は親が遺してくれた資産を取り崩して生活していくことになります。

ご本人が65歳になると、ご本人に年金が支給されるようになりますが、国民年金だけでは生活していくのは難しいです。ご本人の老後まで、親の資産をできるだけ残して、生涯を全うできるようにしたいものです。

貯蓄が不足して、生活費もままならないようであれば、生活保護の申請も検討したいところです。しかし、それは最後の手段であり、できればご自身の貯蓄を使って生活していきたいものです。

そうなると、子どもが85歳から90歳ぐらいまで貯蓄が維持できるようになる必要があります。一般に平均寿命は、男性は80歳ぐらい、女性は87歳ぐらいと言われていますが、実際はもう少し長く生きることを想定しておかなければなりません。何歳まで生きるかは誰にもわからないからです。

このように言うと、「働かないで生きていく、なんて親が資産家でもなければ無理なのではないか」と思われる方も多いと思います。確かに、ある程度の貯蓄を遺してやらないと難しいのですが、意外となんとかなるものです。けっして「資産家」でなければ難しいということはありません。私たちは、働けないお子さんが、親亡き後も賄えるかをシミュレーションすることが多いのですが、「余裕で生活していける」とはいかなくても、「工夫次第でなんとかなりそうだ」というケースは少なくありません。

子どもの85歳までを考えるとしても、かなりの長時間となります。今、子どもが50歳だとしてもあと35年間あります。子どもが30歳であれば、55年間となります。(私たちは、このような長期間の家計シミュレーションをしています。)

分析を続けているうちに、あることに気がつきました。このように長期間の分析では、現在の時点での貯蓄額の多い少ない、ということより支出の状況によって将来の状況が大きく異なってくる、ということです。貯蓄の残高よりも支出の多寡のほうが、将来の家計状況に影響を与えるのです。

現時点での貯蓄額が多くても、支出が多いと、貯蓄の減り方が大きく、遅かれ早かれ貯蓄が枯渇してしまいます。そして30年~50年という長期間では「不足額」がかなりの金額になってしまいます。

一方、現時点での貯蓄額が少なくても、支出が少ない場合は、貯蓄の減り方が小さく、長い間貯蓄が維持できます。お子さんが80代、90代になっても貯蓄が枯渇する心配が少なく、長生きしても不安がなくなります。

では、支出を抑えるポイントはどこでしょうか?
私が多くのご家庭の分析をして感じるポイントは次の2点です。

  1. ご家族の生活スタイル
  2. ご本人の金遣い

ひきこもりのお子さんがいるご家庭は、比較的生活スタイルが堅実なご家庭が多いです。お子さんがご自宅に閉じこもっていると、なかなか旅行にも行きづらいですし、趣味にお金をかける気にもなりにくいでしょう。しかし、日常の買い物や自家用車の買い替えに資金をつぎ込んでいる場合は、収入が多く、資産が多いご家庭でも要注意です。支出することが生活スタイルになってしまっています。

お子さんのほうもあまりお金を使わない傾向があります。部屋に閉じこもっており、あまりどころかほとんど支出をしないお子さんも少なくありません。それはそれで望ましいことではありませんので、ある程度は使ってくれた方が安心です。外に出る、人と交わるということはお金も使うことになります。「お子さんにお金を使わせるために、あえて多めにお小遣いを与えた方がよい」という専門家の方もいます。

しかし、浪費癖があるようでは問題です。あまり活動的でないお子さんでも、金遣いが荒いケースはあります。ネットでなんでも購入できる時代ですので、すぐにいろいろなものを買ってしまうひきこもりのお子さんもいます。購入すること自体がストレス発散になってしまうと、際限がありません。

「生活スタイル」や「金遣い」は習慣的なものですので、これを変えるのは簡単ではありません。時間をかけて、少しずつ直していくことが大切です。

新版『ひきこもりのライフプラン―「親亡き後」をどうするか』

出版されたのが昨年(2020年)4月ですので、今からご紹介するのも遅いのですが、今までご紹介していませんでしたので、この機会にご紹介させていただきます。
岩波ブックレット『ひきこもりのライフプランー「親亡き後」をどうするか』が2012年6月のことでした。当時はまだ、今ほどにはひきこもりが知られてはおらず、一部の若者の現象と思われていました。ひきこもりが、40代、50代になっても続くということが認識されていなかったのです。

ひきこもり支援の第一人者である精神科医の斎藤環氏と畠中雅子の共著で、読みやすいブックレットという形で出版されました。筑波大学の齋藤先生による「ひきこもりの理解と対応」で支援の考え方を説明し、畠中の「ひきこもりのライフプラン」で生活設計の方法をご紹介しています。
生涯、就業しないで生きていく、というサバイバルプランの考え方が、初めて紹介されていました。それまでは、ひきこもり支援といえば、「就業すること」が目標にされがちでしたが、あえて就業しないライフプランが提示されました。けっして回復をあきらめるのではなく、「なんとかなる」という安心感を持つことが社会へと踏み出すきっかけになるという考え方です。

新版「ひきこもりのライフプラン」2020年4月に、内容を一部改訂して「新版」として再び出版されました。基本的な考え方は同じで、最近のトピックスが加えられていますので、これから読む方はこちらを購入されてください。「ひきこもりのライフプラン」の章では、「家族信託」が加わりました。親亡き後の財産管理の手法として、注目を集めています。

ブックレットですので、ページ数は112ページと少なく、価格は720円(税別)。簡単に読めますので、ぜひご覧ください。
※旧版と間違わないように、検索する際は「新版ひきこもりのライフプラン」と入力されてください。
アマゾンでの購入はこちらから

障害年金が受給できる障害の程度

障害があり、働けない状況の人を支える制度として障害年金があります。障害年金には、「障害基礎年金」と「障害厚生年金」があります。いずれも、障害の状態が基準に該当する場合に支給されます。精神的な障害も対象であり、請求をすると、障害の程度に応じて、支給の可否が判定されます。ただ、精神的な障害の場合は、身体的な障害に比べて、障害の程度の判断が難しい傾向があります。症状に波があり、状態や数値で客観的に測れない部分があるからです。ここでは、公表されている資料から、参考になる目安をご紹介します。

障害基礎年金は、障害等級が1級と2級の人に支給されます。障害厚生年金は、初診日に厚生年金の被保険者であった人(一般にお勤めの人)で、障害等級が1級、2級、3級の人に支給されます。障害等級は障害の程度を示す区分けで、障害年金の請求をすると、医師の診断書などに基づいて審査されて決められます。障害者手帳の等級とは異なります。

障害の程度は、1級は「日常生活の用を弁ずることを不可能ならしめる」程度とされています。2級は、「日常生活が著しい制限を受ける」または「日常生活に著しい制限を加えることを必要とする」程度とされています。3級は、「労働が著しい制限を受ける」「労働に著しい制限を加えることを必要とする」程度の障害を残すもの、または「労働が制限を受ける」「労働に制限を加えることを必要とする」程度の障害を有するもの、とされています。これでは意味がわかりませんので、もう少し具体的に見ていきましょう。

障害年金の支給対象となる精神の障害は、次のものです。

  • 統合失調症、統合失調症型障害及び妄想性障害
  • 気分(感情)障害(うつ病、双極性障害など)
  • 知的障害
  • 発達障害
  • 症状性を含む器質性精神障害(認知症、せん妄など)
  • てんかん

障害年金の請求にあたっては、年金請求書、受診状況等証明書、病歴・就労状況等申立書などとともに、医師の診断書を提出します。医師の診断書は、原則として現在受診している主治医に書いてもらいます。障害の程度の判定には、医師の診断書が重要になります。

医師の診断書には「日常生活の能力の程度」と「日常生活の能力の判定」という項目があり、これらの組み合わせが障害等級の目安となります。それに、①病状、②状態像、③療養状況、④生活環境、⑤就労状況を考慮して、総合的に判定されます。

「日常生活の能力の程度」の項目は、以下の5つの段階からの選択となっています。

  1. 精神障害を認めるが、社会生活は普通にできる。
  2. 精神障害を認め、家庭内での日常生活は普通にできるが、社会生活には援助が必要である。
  3. 精神障害を認め、家庭内での単純な日常生活はできるが、時に応じて援助が必要である。
  4. 精神障害を認め、日常生活における身のまわりのことも、多くの援助が必要である。
  5. 精神障害を認め、身のまわりのこともほとんどできないため、常時援助が必要である。

例えば、5と4に該当する場合、「日常生活の能力の判定」との組み合わせで、1級または2級が目安となります。同様に3は2級または3級が目安とされています。そして、2は3級または非該当、1は非該当が目安とされています。この目安に、他の項目を考慮して総合的に判定されますので、一概には言えません。

主治医の先生に診断書を書いていただきますので、障害年金の請求には次の点が重要になります。まずは、定期的に病院に通い、医師の診断を受けていることです。主治医の先生も、いきなりの受診で診断書の作成を依頼されても書けるものではありません。一定の期間の通院を条件としている先生もいます。本人が通えない場合でも、家族が定期的に状況報告と対応相談をするなどをしておいた方がよいでしょう。

そして先生に普段の状況、特に悪い時の状況を正しく伝えておくことも大切です。本人が通院できる時は比較的状態が良い時ですので、主治医の先生に正確な状態をお伝えしておく必要があります。さらに主治医の先生に、障害年金請求する予定であることも話しておくとよいでしょう。その際「現在の状態は障害年金の級で何級くらいになりそうか?」ということを医師に聞いてみるとよいでしょう。医師から明確な答えが返ってこないかもしれませんが「請求をしてみてはどうですか?」や「症状は軽めなので、もう少し様子を見てからにしましょう」といった返事はもらえます。

ご自身での請求が心配でしたら、障害年金の請求になれた社会保険労務士に依頼するのもよいでしょう。請求に必要な書類をすべて揃えてもらうことができます。

働けない子どもはさまざまです

このサイトを運営している私たちの会(と言っても法人格があるわけではなく、単なる任意団体です。)の名前は「働けない子どものお金を考える会」といいます。

〝子ども〟が大人になっても、仕事に就くことができない、仕事で収入を得ることができない、というご家庭に対して、経済的な面でのご相談を受け、アドバイスをしています。

お子さんが「ひきこもり」である場合が多いのですが、子どもが働けない原因は、そればかりではありません。障害や病気など、他にもいろいろな原因があります。私たちの会では、そのすべてを対象に、ご相談に応じています。

お子さんが仕事で収入を得られない、という面は共通していますので、基本的な考え方は同じです。働けない子は親と同居していることが多いので、親がご存命中は親と子の家計を一体のものとして、貯蓄を維持していく方法を考えます。親亡き後は、親が遺した資産を使って生計維持を図ります。いかにして、長く安定して生活を送ることができるかを考えます。もちろん、ご本人が少しでも収入を得られれば、プラスに働きます。

ただ、働けない原因や状況によって、障害年金を受けられるか、行政の支援を受けられるかが違ってきます。それによって、将来の状況はかなり違います。その点を留意しながら、ご本人にとってより良い選択を、ご一緒に考えていきます。

ここでは、お子さんが働けない要因の主なものを見ていきます。

 

身体障碍

生まれつき身体に障碍がある、あるいは子供のころに障碍なった場合は、ほとんどが親と同居し、親の家計で生活を送っています。大人になってから障碍となった場合でも、結婚前であれば、親と同居で同一生計である場合が少なくありません。しかし、その程度や状況にもよりますが、障碍者枠での求人は多く、仕事に就く人も多くなっています。また、障害年金の対象となるケースもあり、ある程度は自立した生活が送れることが多いでしょう。

 

知的障碍

経済的な面だけでなく、生活面での支援が欠かせません。ほとんどは子どものころからずっと親が支援をしてきましたので、親亡き後の生活を心配する親は少なくありません。しかし、知的障害は福祉の歴史が長く、比較的公的支援が充実している傾向があります。経済面だけでなく生活面でも、親亡き後にどのように支援を受けながら生活していくかを検討することが重要になります。

 

発達障碍

「対人関係が苦手なだけ」と誤解されてきた人も少なくないでしょう。人によっては、大人になって、就業してから初めて診断される人もいるようです。社会の理解も十分でなく、なかなか支援を受けられないケースもあるようです。仕事が長続きせず、経済的に厳しいことや、浪費や金銭管理が苦手なケースもあるようです。経済的な面では時間をかけて根気よく支援していくことが大切です。

 

精神疾患

症状に波が大きく、公的な支援の対象になりにくい面があります。症状が落ち着いているときは自立した生活を送れて、仕事もできますが、悪い時には支援すら受け入れられないこともあります。疾患(病気)になりますので、継続的に医師の治療を受けることが大切になります。経済的な支援を受けるのにも、治療を受けていることが前提になります。

 

難病

多くの難病がありますが、症例数が少なく、効果的な治療法が確立されていないことも少なくありません。病名がわかるまでに、長い年月がかかった人もいます。それまでの間は、周囲の理解が得られず、精神的にも経済的にも苦しい状況が続きます。病名によって、公的な支援の対象になる場合とならない場合があり、経済的には大きな差があります。厚生労働省の施策が注目されます。

 

晩期合併症

小児がんを克服したあとに、知的あるいは身体的な面で障碍が残ることがあります。それを「晩期合併症」といいます。小児がんの治療で、かなり強い治療をした後遺症とされています。かつては小児がんを克服することが難しかったため、対象となる人があまりいませんでした。医療の進歩で小児がんから回復するようになり、それとともに増えてきた症状です。一般の人々の理解と公的な支援の構築が求められます。

掲載雑誌のご案内(2020年11月)

雑誌「臨床心理学 120」に執筆しました

メンバー村井英一の記事「ファイナンシャル支援」が、金剛出版の雑誌「臨床心理学 120 第20巻第6号」に掲載されました。

金剛出版は、心理学関係では名の知れた出版社です。そこが出版する「臨床心理学」は、臨床心理士や研究者にとっては定評のある雑誌です。隔月の発行となっており、2020年11月号の特集は「ひきこもりー就職氷河期からコロナウイルス時代を見据えた全世代型支援」でした。
臨床心理士や研究者など20人もの記事が掲載されており、ひきこもりの支援についてさまざまな面からの提言があります。その中の1つ「ファイナンシャル支援」を、私たちのメンバー村井英一が執筆しました。
表やグラフを交えた解説で、経済的な面から、ひきこもりの子どもが親亡き後も生活していくために、利用できる支援策を紹介しています。

この雑誌は、臨床心理士や研究者などに向けて作られているものですので、一般の方には読みにくいかもしれません。しかし、多くの研究者や現場で実践的に対応している第一線の支援者によって、多面的に論じられていますので、ひきこもりの支援に関心がある方にはぜひ読んでいただければと思います。

金剛出版
「臨床心理学 120 第20巻第6号」
境 泉洋 編
定価1,760円
こちらで購入ができます。⇒アマゾンサイト

携帯料金を安くする方法

菅内閣は、目玉の政策として「携帯電話料金の引き下げ」を掲げています。これを受けて、武田総務大臣は「公共の電波を利用する事業者が、このコロナ禍において国民生活が苦しい現状において、相当な利益を上げている」と、大手の携帯電話会社を厳しく批判しています。

10月にノーベル経済学賞が発表されましたが、受賞の対象になったのは「電波入札のためのオークション理論」です。今では日本以外のすべての先進国で、携帯電話の電波周波数帯を入札で割り当てていますが、日本だけは総務省が選んだ事業者に〝ただで〟割り当てています。それだけに総務省は携帯電話会社に圧力をかけていますが、民間企業ですので、値下げを強要することはできません。事業者としても、「政府の要請で値下げしました」では、かえって批判を受けるかもしれませんし、株主代表訴訟を起こされないとも限りません。

総務省はアクションプランで「契約内容をわかりやすくする」「契約期間のしばりを排除して乗り換えしやすくする」などを求めていますが、はたしてそれで大幅に携帯電話の料金が下がるでしょうか?

実は、今でも携帯電話の料金を大幅に引き下げることはできます。格安携帯電話会社を利用することです。

携帯電話会社といえば、NTTドコモ、KDDI(au)、ソフトバンクが思い浮かびます。それに、今年(2020年)の4月には楽天モバイルが参入しました。これらの携帯電話会社は、通信設備や基地局を自社で保有しています。それに対して、格安携帯電話会社と言われる事業者が、数十社もあります。こちらは、自社では設備を持っておらず、上記の大手携帯電話会社の設備を借りて運営しています。Mineo、ONCモバイルone、IIJmio、BIGLOBモバイルなど多くの事業者があります。

大手携帯電話会社は、自社の設備にかかる費用を賄うため、多くの利用者が必要で、膨大な広告宣伝費をかけます。それに対して、格安携帯電話会社は少ない契約者でも運営できますので、テレビCMも見かけません。心配される「つながりやすさ」については、大手携帯電話会社の設備を使っていますので、問題ありません。ただし、携帯ショップがほとんどないため、何かあった時にすぐに駆け込んで見てもらう、ということはできません。料金は、プランによっても異なりますが、大手携帯電話会社に比べて半額ぐらいに下がります。

Y!モバイルはソフトバンクの、UQモバイルはKDDI(au)の格安ブランドで、格安携帯電話会社に対抗するために設けられました。ショップも比較的多く、それでいて料金はメインブランドの7~8割程度です。もちろん、つながりやすさはメインブランドと同じです。通信設備は共通ですので。ちなみに、筆者(村井)はY!モバイルを使っています。メインブランドに比べて、広告が多いのが玉にキズですが、料金は3割ぐらい抑えることができました。ショップも近くにあるので安心です。

格安携帯電話会社が大手携帯電話会社に払う設備使用料を引き下げることも、アクションプランに明記されています。それが実現されれば、さらに格安携帯電話会社の料金は下がりますが、大手携帯電話会社がそう簡単に値下げをするとは思えません。それでも、現在の状況でも格安携帯電話会社あるいは格安ブランドへ乗り換えるだけで、十分に携帯料金を節約することはできます。政府の圧力が実現されるのを待つ必要はありません。

携帯電話会社を変えなくても、料金を下げることはできます。プランの見直しです。かつて、携帯電話本体の料金を0円などで販売する手法が問題となり、端末本体と通信料を分けるようになりました。しかし、端末本体の料金を分割払いしている2年間は、その分通信費を割り引いているのがほとんどです。2年が経過して、端末本体の支払いが完了しても、通信費は下がるわけではなく、そのままの高い料金が続きます。(割引がなくなるだけ。)

2019年に各社は、端末本体の支払い期間も割引しない、安い料金プランを出しました。2019年より前に契約した人は、このプランに乗り換えるだけで、料金が安くなります。今の契約をしてから2年以上が経過した人は、プランの見直しをするとよいでしょう。端末本体を買い替えるのでなければ、その分の料金が下げられます。携帯からスマホになり、さらにカメラが高画質になり、端末本体の料金は上がっています。端末本体の料金が通信費から割り引かれていた時はそれほど気がつきませんでしたが、携帯料金のうち端末本体の支払い部分は小さくありません。端末本体を2年ごとに買い替えるのでなければ、プランの見直しで、携帯料金を下げることができます。

ファイナンシャル・プランナーはどんなことをするのか

ファイナンシャル・プランナーに「お金の相談」をしたら、どんなことをしてくれるのか、お話したいと思います。ファイナンシャル・プランナーといっても、いろいろなタイプの人がいて、その相談方法もまちまちです。よってここでご紹介するのは、あくまで私(村井)のご相談方法です。

ファイナンシャル・プランナーによる家計診断の基本は、「キャッシュ・フロー分析」です。中には、資産運用や保険の選択など、特定の分野に特化して、その相談だけを受ける人もいますが、私の場合は「キャッシュ・フロー分析」を行い、その上で運用や保険のご相談を受けています。

「キャッシュ・フロー分析」とは、現状の家計の状況を伺い、それを基に1年後の家計収支、2年後の家計収支を推測していき、10年後、あるいは30年後なの家計状況を推測していく分析手法です。そうすることで、将来の家計の状況が、今の段階でおおよそ把握できるようになります。

              1年間の収入 - 1年間の支出 = 年間収支

              前年の貯蓄残高 + 年間収支 = この年の貯蓄残高

この考え方を毎年繰り返していくと、10年後でも、30年後でも家計の状況が推測できるわけです。自宅を修繕したり、自動車を買い替えたり、といった大きな支出がある年は年間収支がマイナスになります。その年は貯蓄残高が減少することになります。ときにそういう年があっても気にする必要はありませんが、それが続いて、貯蓄残高までがマイナスになると問題です。貯蓄残高がマイナスということは、家計が破たんしている状態ですから、なんとか回避する必要があります。今の段階で、将来に危機的な状況になることがわかれば、改善策を考えればよいわけです。将来の状況をつかみ、問題があれば早めに対策が取れるのが、「キャッシュ・フロー分析」のメリットです。

もちろん、実際には計算どおりにならないこともあります。予想外に大きな出費があったり、いつの間にか少しずつ支出が膨らんでいることもあります。分析する期間が長くなればなるほど、現実との誤差は大きくなります。ただ、それでもあらかじめ、将来の状況が予測できているのといないのでは、大きな違いがあるでしょう。

ファイナンシャル・プランナー向けの専用ソフトもありますが、手書きで表を作っても、エクセルを使っても作成可能です。自分で作ることも可能ですし、退職者研修などで導入している企業もあります。(私も研修の講師をすることがあります。)ファイナンシャル・プランナーに依頼すると、有料にはなりますが、より妥当な分析になるでしょう。数多くの相談を受けていますので、微妙な〝さじ加減〟ができるからです。

さて、一般のご夫婦からのご相談による家計分析と、ひきこもりのご家族からの家計分析ではどう違うのでしょうか?

基本的な考え方は、上記の「キャッシュ・フロー分析」によりますので、同じです。ただ、一般的なご夫婦の場合は、そのご夫婦の平均寿命(正確には「平均余命」となります。)までの分析となり、そこまでに貯蓄を維持できていれば問題ありません。それに対して、ひきこもりご家族の場合は、ひきこもりのお子さんの平均寿命(余命)までを対象とし、そこまで貯蓄が維持できるかを分析します。分析の期間が40年、50年にも及ぶ長いものになります。

もう1つの特徴は、親とひきこもりの子の家計を一体のものとして分析する点です。多くの場合、ひきこもりのお子さんは親と同居しており、家計は一体です。別居している場合もありますが、それでもその子の生活を支えているのは親の家計です。そこで、親が生きているうちは、ひきこもりの子の生活費も親と一緒に計算し、親が亡くなると親の資産をその子がそのまま引き継ぐものとして計算します。ひきこもりではない子(ひきこもりの子の兄弟姉妹)が相続する資産は「出金」として計算します。このように計算すると、現在の状況から親亡き後の子の生活までが、一連の流れとして推測できるようになります。

ひきこもりの子が、生涯にわたって「収入を得られない」前提で分析するのも特徴です。そのような状況で、貯蓄の状況がどのようになっていくかを見ていきます。もちろん、ひきこもりのお子さんが仕事をして収入を得られるようになることもあります。それは、「収入を得られない」場合を基本として、アレンジしていきます。どのくらいの収入を得ると、どのくらい状況が改善されるか、ということも予測できます。

この辺りは一般の相談とは違うところで、ひきこもりのご家族のご相談を多く受けているファイナンシャル・プランナーに依頼した方が適切です。「キャッシュ・フロー分析」では、パターンを変えての分析も可能ですので、ご希望の状況に合わせて分析することもできます。

新型コロナとひきこもり

新型コロナ感染症の影響が長引いています。世界各地で再び感染が拡大し、フランスやドイツではまた外出禁止の措置が取られました。日本でもインフルエンザが流行する冬を迎え、不安が高まっています。

4月から5月にかけては、ヨーロッパやアメリカの各地で外出禁止が実施され、日本でも緊急事態宣言で不要不急の外出は自粛するように要請されました。すべての人が自宅に引きこもるような状況でしたが、「ひきこもり」にとってはより深刻でした。コロナ禍による環境の変化が、ひきこもりに与えた状況を見てみます。

  • 家族も自宅に居るようになり、軋轢が増えた

リモートワークや休校で、今までは日中は外出していた家族が家に居ることが多くなりました。すると、ひきこもりの家族と接することが多くなり、余計なことを言ったり、いさかいが多くなりがちです。ひきこもりの本人は、仕事をしていないことを後ろめたく感じています。それだけに親の存在はプレッシャーで、ちょっとした一言に過剰に反応してしまうことがあります。また、社会生活を送っている兄弟姉妹に引け目を感じていることも多く、兄弟姉妹がいるだけでストレスを感じることもあります。雇用の継続に不安を感じている親が本人に干渉して関係がこじれることもあります。

  • ひきこもり支援が中断し、元に戻ってしまう

最近は自治体やボランティア団体による、ひきこもり支援も多くなっています。ひきこもりが安心して集うことができるフリースペースなどの居場所や就労支援事業所なども設けられています。せっかくそのような施設に通うようになったのに、新型コロナの感染防止のために、ほとんどの施設が休止や閉鎖となりました。その結果、再び自室にこもるようになると、外出できるようになるまでまた時間がかかってしまうこともあります。うまくいきかけていた社会復帰が1からやり直しになってしまいます。

  • 世間の不安な状況を感じ取り、さらに不安が募る

ひきこもりもネットやテレビで世間の状況は見ています。最近のニュースは、新型コロナの感染拡大を伝える、暗いものばかりです。社会が不安定な状況になると、ひきこもりも敏感にそれを感じ取り、自分の将来をますます悲観的に考えてしまうことがあります。その不安のために、家族に当たったり、自分の殻に閉じこもったりという行動に現れることがあります。

新型コロナの影響で、ひきこもりをめぐる状況はより深刻になっていると言えます。しかし、一方で多くの人が外出を自粛する状況がプラスに作用しているケースもあります。

  1. 自宅でひきこもっても不自然ではなくなった

以前であれば、子供と老人以外が日中に自宅に居るのは不自然でした。しかし緊急事態宣言による休校やリモートワークで、それが珍しくなくなりました。そのことでひきこもりでも居心地が良くなったとは言えませんが、日中の外出がしやすくなったのではないでしょうか。

  1. 外出自粛で、ひきこもりの疑似体験ができた

働いている人でも自宅待機が珍しくなくなりました。休業や失業で、不安を抱えながら自宅で過ごす人もいます。そのためにイライラしてしまうこともありますが、ひきこもりの疑似体験をすることで、家族がひきこもり本人の気持ちを理解することもあります。

  1. オンライン会議システムの普及

インターネットは、外出しての交流が難しいひきこもりにとって、外との交流の手段となりえます。対面しての会話は難しいものの、インターネットを通じての交流ならできるという人もいます。コロナ禍でオンライン会議システムがかなり広まりました。感染防止でイベントを中止していた支援団体がオンライン会議システムでミーティングを開くようになりました。そのおかげで、外部との交流ができるようになった人もいます。

やはりコロナ禍によるプラス面よりもマイナス面の方が大きいが現状ですが、プラス面をうまく活用したいものです。

名古屋大学の教授が、イギリスの研究者と共同で、コロナ禍によるひきこもりへの影響を論文で発表しています。それによると(英文ですので、原文を読んだわけではなく、内容を紹介した記事によると)、ひきこもりは日本だけでなく、海外でも増えているようです。コロナ禍での自粛解除後もそのまま引きこもる人が増えることが予想されています。今後はより充実した公的支援も求められます。

ポイントキャンペーンに要注意

今年(2020年)の9月から「マイナポイント」がスタートしました。10月からは「Go To Eat」キャンペーンが始まっています。ほぼ同時期に始まった国の還元策ですが、Go To Eatがコロナ経済対策なのに対して、マイナポイントは昨年の消費税増税の景気対策とマイナンバー普及を目的としています。
ともあれ、いずれも決められた形での〝消費〟に対して、国が税金を使って補助してくれるという制度で、うまく使えばお得になります。

まず、マイナポイントから見てみましょう。キャンペーン期間は来年(2021年)3月末までの7ヶ月間です。
まずはマイナンバーカードが必要ですが、作成には1ヶ月ぐらいかかりますので、まだ持っていない人は早めに交付申請が必要です。マイナンバーカードができたら、ポイントを貯めるためのキャッシュレス決済を登録します。
①電子マネー ②プリペイドカード ③QRコード ④クレジットカード ⑤デビットカードから1つを選びます。なるべく普段使っている、または使いやすいものがよいでしょう。
手続きは「予約」と「申込み」に分かれていますが、カードを選んでおけば、一挙にできます。ネットでもできますが、スマホの場合はNFC(近距離無線通信:Felicaも可)対応のものでなければできません。パソコンの場合はカードリーダーライタという機械が必要です。
それ以外では、コンビニのATM、マルチコピー機などの「マイナポイント手続スポット」でできます。
画面に従って、マイナンバーカードのパスワードや決済サービスID、セキュリティコードなどを入力しますが、決済サービスIDとセキュリティコードは会社によってまちまちです。また、事前に会員登録やメールアドレスの登録が必要な会社もあります。コンビニに行く前に、マイナポイントのサイトまたはカード会社のサイトでよく確認しておかないと、戸惑うことになるでしょう。

カードの登録ができたら、あとはそのカードで買い物をすれば、購入額の25%分のポイントが付与されます。上限額は5,000円ですので、3月までに2万円の買い物をすれば最大のポイントを得られます。ポイントの利用は3月を過ぎても大丈夫ですが、カード会社によってはポイントに有効期限がありますので、注意しましょう。

一方、Go To Eatも期間は来年(2021年)3月までです。こちらの還元を受けるのには2つの方法があります。
1つはオンライン予約サイトの利用です。オンラインの予約サイトで、対象の店舗を予約して食事をすると、そのサイト内で使えるポイントが付与されます。昼食時間帯(AM7:00-PM2:59)に利用すると500円分、夕食時間帯(PM3:00-AM6:59)に利用すると1,000円分のポイントとなります。次回以降にまた、その予約サイトで予約をして食事をする際にそのポイントが使えます。
利用回数に制限はありませんが、ポイントを得るのは1月末まで、ポイントの利用は3月末までとなっています。期間が短いので、早くポイントを貯めて、早く使うのがコツでしょう。

もう1つの方法は、プレミアム食事券の購入です。地域によって多少違いがありますが、おおむね1,000円券10枚と500円券5枚をセットにした1万2500円分の食事券が1万円で販売されます。食事券が使えるのは、その都道府県内で登録した飲食店で、来年(2021年)3月まで使えます。
お釣りは出ませんし、使い残しても返金されませんので、計画的な利用が必要です。都道府県で販売方法や進捗状況がまちまちで、すでに郵送での申し込みを締め切った県もあれば、まだ実施団体が決まっていない地域もあります。
埼玉県の場合はインターネットで申込み、ファミリーマートにあるFamiポートという機械で購入します。千葉県の場合は郵送で申し込んで市区町村の商工会議所で購入するか、LINEで申し込みます。
いずれも、各都道府県の事務局のサイトで確認してください。もっとも、大半の地域でまだサイトができていませんが。。。

このように、マイナポイントにしても、Go To Eatにしても、事前の手続きが大変です。そして、ポイントを得たり、利用したりできる期間が限られています。
期限が過ぎてしまうと、お得にならないばかりか、プレミアム食事券は損になってしまいます。すると、どうしても期限間際に駆け込みの購入や利用をすることになりがちです。ポイントで節約になるどころか、かえってムダに消費してしまい、散財してしまうことになりかねません。
キャンペーンの宣伝に惑わされずに、わが家にとってメリットがあるかどうか、今一度考えてみましょう。